先輩に聞く

【30sta!な人・vol.10】50代で人生を再設計。「会社に縛られず、複数企業で働く方がリスク分散になる」と副業マッチングを活用

30代以降に新たな挑戦を始めた方を取り上げる「30sta!な人」。

第10回は、企業の広報やBtoBマーケティングを手がける合同会社プロモットワークス代表の神山行孝さんに迫ります。

前職では、メーカーの広報・マーケティング部門を率いていた神山さん。しかし、50代を迎えたとき、目の前に見えてきたのは「役職定年」や「定年後の大幅な収入減」という現実でした。

「一社に依存し続ける方が、むしろリスクではないか」──。

そう判断した神山さんは2023年、長年会社で培ったスキルを武器に独立。現在は、ある自治体の広報改革をはじめ、複数の企業のプロジェクトを進行しています。自治体の広報改革のプロジェクトは、パーソルイノベーションが運営する副業人材マッチングサービス「lotsful(ロッツフル)」で見つけたそうです。

「今は“働き方”を選べる時代。それを自分のキャリアで証明したい」

50代で踏み出した“実証実験”は、どんな未来を切り拓くのでしょうか。

(text:山田優子 取材月:2025年4月)

会社員リスクを逆算し、50代で“分散キャリア”を選ぶ

―50代という年齢で会社を辞め、独立へ踏み出すのは相当な勇気が必要だったはずです。なぜ、決断できたのでしょうか。

神山 一言で言えば、動かない方が自分にとってはリスクだと感じたからです。

50代は、サラリーマンにとって“転換点”。私自身、若手が次々と入社し、活躍していく姿を見ながら、「自分は会社にどれくらい貢献できているのか?」と自答するようになりました。

そこに、役職定年や給与ダウンといった現実が迫り、「この先、もうポジションは上がらないかもしれない」「定年後は収入が大幅に下がるだろう」「55歳前後で働き方や立場が変わる可能性もある」と、不安が頭をよぎるようになっていきました。

さらに、晩婚化の影響で、定年を迎える頃でも子どもがまだ学生という家庭も珍しくありません。私自身も、家族のライフステージと企業の給与カーブのズレを実感し、「このままではいけない。しっかり所得を得るためには方向性を変える必要がある」と考えるようになりました。

―「一社に依存し続ける方がリスク」と感じたわけですね。

神山 そうですね。もちろん、一つの会社でキャリアを積み、出世していく人もいます。それはそれで素晴らしいことです。

しかし、私の場合は、サラリーマンという生き方に縛られるのではなく、自分のスキルを活かして、いろんな会社と仕事をし、収入先を分散した方がリスクを抑えられるのではないかと思うようになったんです。

―ちなみに、前職ではどのような業務に取り組んでいたのですか?

神山 事業会社で25年以上にわたり、広報やマーケティング部門で勤務し、部門の責任者も務めていました。

具体的には、展示会を起点としたBtoBマーケティングや店頭プロモーションの戦略立案から実行までを行っていました。

同時に、企業広報も兼務し、企業ホームページ、採用サイト、会社案内など、企業のブランドイメージを社内外に伝えるためのツールや媒体の企画・運用を行っていました。

ネットを見ると、華やかな経歴を持つ起業家が目立ちますが、私はごく普通のサラリーマンです。ただ、これまで一生懸命に仕事をして、積み上げてきた経験とスキルがあります。

その経験をもとに、「組織を離れても自分は通用するのか?」ということを試したかった。まさに“自分を使った実証実験”ですね。

―新たな挑戦に対し、不安はありませんでしたか?

神山 もちろん、不安はありました。けれど、前職が副業禁止でしたから「まずは副業で試す」という選択肢はなかったんです。

だから、「踏み出さないと何も変わらない。思い切るしかない」と覚悟が決まった。家族は特に反対もせず、静かに見守ってくれていました。そして、2023年9月に退職し、翌10月に合同会社プロモットワークスを設立しました。

自治体×lotsfulで挑む“全員広報”改革

―現在、ある自治体の仕事をしていると伺いました。そのきっかけは何だったのでしょうか?

神山 独立直後、予定していた案件が先方の事情で消えてしまい、仕事探しはゼロからのスタートでした。そんななかで出会ったのが、副業人材マッチングサービス「lotsful(ロッツフル)」 です。

lotsfulは自治体案件にも力を入れており、ある自治体が広報・PR領域の専門人材を募集していました。そして、縁あって 2024年6月から参画し、現在(取材時点2025年4月)も週1回のオンラインミーティングをベースに、必要に応じて現地に顔を出しながら支援を続けています。

―具体的にどのような業務を担当されているのですか?

神山 1年目はまず「広報の情報発信のあり方」を整理しました。その自治体では、広報部門だけが情報発信を担うのではなく、各部門がそれぞれのターゲットに向けて情報を届ける「全員広報」を掲げていました。

全員広報をおこなうためには、ただ情報を発信するだけではなく、「どうすれば伝わるのか?」という視点を各人が持つことが重要です。そこで、職員の皆さんと一緒に、情報発信の目的や方法を見直し、全員が主体的に広報に関わるための考え方を共有しました。

―2年目はどのようなお仕事を?

神山 「全員広報」を実現するための実行フェーズに入りました。具体的には、職員向けに広報の考え方やスキルを解説する動画を制作し、研修プログラムに組み込む予定です。

さらに、「データドリブンでの広報」を目指し、Google Analytics 4 (GA4) やSNSの分析ツール、QRコードの流入計測を導入しました。これにより、発信内容の効果を数値で確認し、改善につなげていきたいと思っています。

―自治体ならではの難しさは感じましたか?

神山 一番は「スピード感」ですね。民間企業は、売上や成約数など、短期的なKPIを追いかけ、数値で成果を出すことが求められます。

一方、自治体は「住民サービスの質」を向上させることが目的です。すぐに成果を求められるものではなく、長期的な視点で物事を考えなければなりません。

ところが、私は当初、民間の感覚で大量の提案資料を出してしまい、スピーディな対応を求めてしまった。その結果、職員の皆さんには負担をかけてしまったかもしれません。そこでアウトプットを絞り、一緒に考えるスタイルに切り替えました。

―lotsfulのサポートはいかがですか?

神山 とても助かっています。一般的に、マッチングサービスは「つないで終わり」というケースが多いのですが、lotsfulは違います。担当者が自治体とのミーティングに同席し、現場とのやり取りも直接行ってくれるんです。

現場の状況をしっかり把握してもらっているので、問題があればすぐに相談できる。自治体のように関係者が多く、スピード感も異なる環境では、こうした伴走サポートが非常に心強いですね。

4社並走、複数クライアントが生むシナジー

―独立してよかったことは何ですか?


神山 おかげさまで、収入面ではサラリーマン時代よりも良くなりました。それに、人脈も広がりましたね。

今は、自治体を含め、4社の支援を並行して行っています。各クライアントごとに求められることが異なり、毎回新しい経験を積めるのが面白いです。

サラリーマン時代は、どうしても仕事がルーティン化しがちでした。「今年もこの時期が来たな」といった感じで、予測できる安心感はありましたが、反面、マンネリ感も強かった。でも今は、毎回新しい課題に向き合い、試行錯誤するたびにスキルが磨かれていく感覚があります。

しかも、その経験は自然と知識として自分の中に「蓄積」され、他のクライアント支援にも応用できる場面が多い。

たとえば、自治体では「知見が蓄積しにくい」という課題をよく耳にします。職員が3〜5年で異動してしまうため、ノウハウが引き継がれにくいんです。

ですが、他のクライアントで得た「知識を共有する仕組み」を、自治体支援にも応用できると考えています。こうして、各クライアントで得た知見が互いに掛け合わされ、自分自身のスキルもどんどんアップデートされていく。その実感があるのが、独立して一番の魅力ですね。

―逆に、独立して大変なことは?

神山 正直なところ、今は「頑張れば頑張るほど仕事が増える」状態です。自分の時間を切り売りしているようなもので、いわば一人で「ブラック企業」になっています(笑)。

もちろん、その分収入は増えますが、持続可能な働き方とは言えないですよね。今は経験を積む時期だと思っていますが、どこかで働き方を見直す必要がある。効率化や仕組み化を進めて、自分一人でも無理なく回せる体制を整えることが、次の課題だと感じています。

まずはクライアントワークを続けながら、自社サービスの構築に力を入れていきたいと考えています。実は、そのベースとなるアイデアはすでにあるんです。あとはどこかのフェーズで、しっかりとサービスとして提供できる体制を整えていきたいと思っています。

リスクはゼロにならない。見極めることが大事

―では最後に、50代で「自分の力で生きる」という選択をされた神山さんだからこそ伝えたいメッセージがあればお願いします。

神山 50代からの挑戦にはリスクが伴います。収入が不安定になるかもしれませんし、仕事が見つからないかもしれない。でも、それはサラリーマンという働き方も同じだと思うんです。一社だけに依存していれば、その会社がダメになった際、全てを失うリスクがあります。

一方で、複数のクライアントと仕事をしていれば、どこかがダメでも他で補える。そう考えれば、むしろ「分散したキャリア」の方がリスクは小さいこともあるんです。

大事なのは、自分で「どのリスクを取るか」を見極めること。リスクゼロで挑戦するのは不可能です。でも、自分が納得できるリスクなら、一歩踏み出してみる価値があります。

これまで積み重ねてきた経験やスキルは、必ずどこかで活かせるはずです。

私の挑戦が、次なる新たな働き方として「こういう生き方もあるんだ」と、悩んでいる人の背中を押すきっかけになれたら、それが一番うれしいですね。

~取材を終えて~

50代からの独立は、一見、リスクが高く思えるかもしれません。

しかし、神山さんはこれまでのキャリアで積み上げた経験とスキル、そして何より「一生懸命に仕事に向き合ってきた」という自負を武器に、新たな挑戦へと踏み出しました。

それは決して無謀な賭けではなく、リスクを見極めたうえでの冷静な判断。いまはlotsfulのような専門人材を副業でマッチングするサービスもあり、チャンスをつかみやすい時代です。

今回の取材を通じて、神山さんが示してくれた「50代からの新しい働き方」は、キャリアの岐路に立つ多くの人たちにとって、次なる一歩を踏み出すための“道しるべ”になるはずです。

ABOUT ME
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山田優子
神奈川県生まれ。大学卒業後、百貨店内の旅行会社に就職。その後、大阪に拠点を移しいろいろな業界を渡り歩くも、プロジェクトベースの働き方に憧れて2018年にフリーライターへ転向。ビジネス系の取材記事制作を軸に活動中。一児の母。毎日欠かせないもの、珈琲と山椒。