先輩に聞く

【30sta!な人・vol.7】30代後半から全国の地方副業プロジェクトに飛び込み、今や参加数日本一? ハマりにハマった理由とは

長野県塩尻市の「MEGURUプロジェクト」や「複活」、愛媛県松山市の「だんだん複業団」、鳥取県の「とっとり翔ける福業」などなど、ここ3年で、全国各地の地方副業プロジェクトに次々と参加しているのが、松本慕美さん。おそらく日本で一番、地方副業プロジェクトに参加している人でしょう。なぜそんなにハマっているのでしょうか? 地方副業の魅力をたずねました。(text:杉山直隆)

(プロフィール)
まつもと・もとみ さん
1982年東京都生まれ。大学卒業後、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)に入社。2007年にエス・エー・ピーに転職し、日光東照宮や富岡製糸場などでのイベント企画・運営に5年間従事。カメヤマやSIRI SIRIで商品開発・マーケティングなどを手がけた後、2021年に(株)白草を設立。地域のプロダクト、まちづくり、観光事業などの領域を横断し、地域資源を生かした事業開発、商品開発をおこなう。

新型コロナで狂った計画を、地方副業プロジェクトがカバー

──全国各地の副業プロジェクトに次々と参加されているそうですね。そのきっかけを教えてください。

松本
2019年に個人事業主として独立してまもなく、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったことです。

独立前から、私は「いかに伝統文化をビジネスにし、現代に残していくか」に興味があり、伝統文化に関するイベント運営や商品開発などを3社で手がけてきました。何もないところから企画書を作って、賛同者を集め、みんなで一つのものを作り上げていくのはすごく面白かった。さらに多様な案件にチャレンジしたいと考え、独立したのです。

独立後は地方をぐるぐる巡って、地元の方と仲良くなり、そこで新たなお仕事をつくれればと考えていました。

ところが、コロナの影響で地方行脚ができなくなりまして…。当時は東京の人間が気軽に地方を歩き回れる状況ではありませんでしたからね。さらに他に関わっていたお仕事もコロナで白紙になることも出てきて、困ったな……と思っていました。

何か、地方の伝統文化の仕事に関わる方法はないか? そう思って、ネットで検索していたら、「MEGURUプロジェクト」を見つけたのです。

──「MEGURUプロジェクト」は、塩尻市の企業と副業者をマッチングして、3カ月間、一緒に課題解決に取り組むという市の企画ですね。

松本
はい。2020年の第1期目で、複数の企業が副業人材を募集していました。そのなかの1社に、木曽漆器や家具などを手がける大河内家具工房さんがいて、興味を持ったのです。リモートのやり取りで仕事ができたので、東京にいる私にもチャンスがあった。これは面白そうだと応募したら、採用していただけました。

──3カ月間で、どんな仕事をしたのですか?

松本
大河内家具工房の大河内社長が「商談や図面作成までこなす、新たな意味での多能工を育成したい」と考えていたので、職人さん向けの人材育成ワークショップを企画して、実施しました。私ともう一人、大手メーカーにお勤めの方が副業人材として加わっていたので、協力して、自己分析などの内省プログラムをおこないました。

伝統工芸の経験だけでなく、新卒で2年半勤めていた人材会社のキャリアコンサルティングの仕事もここで役立ちましたね。

リサイクル、アパレル、カフェ、美容室……。多様な経験を副業で積む

──その後も、立て続けに副業を?

松本 
パソナJOBHUBでさまざまな副業マッチングを手がけていることを知り、いろいろと応募しました。

まず、愛媛県松山市の「だんだん複業団」に参加し、廃材から商品を生み出しているアップサイクル愛媛さんのプロジェクトサポートや、シルク製品を手がけるユナイテッドシルクさんの支援をしました。

鳥取県の「とっとり翔ける福業」では、「五臓円茶房いとま」さんという文化財の建物を使ったカフェの開店に関して少しアドバイス。

現在も「複活」で出会った塩尻市のモナミ美容室・イワサ理容室で、着物のツーリズム事業開始に向けて準備をおこなっています。

その他にも、マッチングサービスのSkill Shiftを活用して、長崎・壱岐でクラフトビールを製造販売するISLAND BREWERYさん、福島・いわきで綿花の栽培からオーガニックコットン製品の開発まで手がける起点さん、群馬・富岡の衣料品店・いりやまさんのプロジェクトに参加しています。 

同じくマッチングサービスのAnother worksで募集していた京都府与謝野町の広報広聴戦略アドバイザーもしました。

期間はだいたい3カ月~1年間のことが多く、同時進行しているお仕事も少なくありません。

──どれもまったく違う業種の仕事ですね。さまざまな体験ができて面白そうです。

松本 
私は小さな事業者さんのプロジェクトを手がけるのが好きなので、そうしたプロジェクトに出会いやすいのが、副業マッチングサービスの魅力ですね。

ちなみに、副業終了後もつながっている方もいます。たとえば大河内さんは、副業期間が終了した後もたまに相談に乗っていて、最近は営業活動の支援を少しお手伝いしています。具体的にはギフトショーの出店サポートをしたり、お店に営業に行ったりといったことです。成果が出つつあるので、楽しいですね。

報酬が低くても副業プロジェクトに参加する理由とは?

──しかし、こうした副業プロジェクトは本業と比べると報酬が低いことも多いのではないかと思います。松本さんほどの実績があれば、副業プロジェクトを活用しなくても仕事をつかめると思うのですが、なぜ続けているのですか?

松本 
それ、他の人にも言われました。なんでそんなにやっているんですかって(笑)。理由は、副業プロジェクトならではのメリットがあるからでしょうか。

──たとえばどのようなことですか?

松本
一つは「自分が都会のルールに凝り固まっている、と気づけること」です。

地方都市で副業をすると、資本主義的な都会のルールとは違うルールがあることに気づきます。極端な例でいえば、地元のお祭りがあると、その前後2週間は担当者と連絡が取れなくなったり、仕事を持っていくと「こいつは空気が読めていないな」と思われたりする。「仕事なんていいから神輿を担げ」と言われたりして(笑)。

でも、そういうルールと触れ合っていると、自分が知らぬ間に都会のルールに縛られていることに気づけるのです。この場合は「常に効率を求める」ようなことですね。

私も新卒で大きな会社にいたのでわかるのですが、1社に長くいると、会社のルールがまるで自分の人生のルールのような錯覚を覚えるようになります。そのことに気づくことが、人生を豊かにする上でめちゃくちゃ大事だと思うのです。

──単なる旅行ではなく、地方で働くからこそ、そのルールに気づけるわけですね。

松本 
あと、普段なかなかお会いできないような方と一緒に仕事ができることは、すごく勉強になります。

たとえば、MEGURUプロジェクトでは、普段は大手メーカーで働いている方と一緒に副業をしたのですが、まったく自分と文脈が違う方と、パートナーとして同じプロジェクトを進められる機会は、他ではまずありません。話を伺っていると、同じ意見のこともあれば、違う意見をいただくこともあり、貴重な文化交流ができます。

同じ地域や複業に興味があって熱量が高い人とのつながりができる

──人のつながりもかなり増えるのでは?

松本 
横の仲間はめっちゃできますね

地方副業で出会えるのは、一緒に副業をする方や受け入れ企業の方だけではありません。1泊2日程度の合同フィールドワークがあると、同じ地域や複業に興味があって熱量が高い人とのつながりができます。こうした方と一晩中話していると、いろんな話ができるんですよね。1回もリアルで会っていないけど、電話やZoomで1年ぐらい話していて、すごく仲良くなった人もいます。

私の本職はマーケティングですが、マーケティングの担当者は大きな会社でも数人程度しかいないので、意外と横の情報共有ができません。でも、副業仲間のマーケティング職の方と話していると、「他社さんはそうやっているんだ」と視野を広げられます。

また、地元の方と一緒に働くことで、その土地の文化や大切にされているものも感じることができます。地方副業の仕事はお金をいただきながら、地方のディープな体験をできる観光とも言えますね。

──良いことづくめですね。

松本
地域に深い関わりを持たない方は地域にめちゃくちゃ入りづらいと思うのですが、副業マッチングサービスを利用すれば、そういった方でも地域に入っていくことができます。

別に宣伝をしたいわけではありませんが、最近は、友人にも、地方での副業をめちゃくちゃ勧めまくっています。何も失うものはないし、得るものしかありません。少しでも興味があれば、チャレンジしたほうがいいと思いますね。

~取材を終えて~
地方副業プロジェクトはどこも競争率が高く、なかなか採用に至りません。そんななか、松本さんが多くの地方副業に参加できる大きな理由は、30代後半までにさまざまな業務経験を積んできたから。30代以上だからこそチャンスが広がっているといっても良いでしょう。「こう歩めば盤石というキャリアがなくなりつつある今、重要なのは『いかに自分の望む方向で経験を積んでいくか』だと考えています。そういう意味でも地方副業は良い機会になります」と松本さん。読者の皆さんも、楽しそうに感じる副業があれば、ぜひチャレンジしてみてください。

ABOUT ME
杉山 直隆
1975年、東京都生まれ。専修大学法学部在学中に、経済系編集プロダクション・カデナクリエイトでバイトを始め、そのまま1997年に就職。雑誌や書籍、Web、PR誌、社内報などの編集・執筆を、20年ほど手がけた後、2016年5月に、フリーのライター・編集者として独立。2019年2月に(株)オフィス解体新書を設立。『週刊東洋経済』『月刊THE21』『NewsPicks』などで執筆中。二児の父(11歳&8歳)。休日は河川敷(草野球)か体育館(空手)にいます