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地方副業・兼業・プロボノは、フリーランスや副業ワーカーに何をもたらすのか? フリーランス協会・平田麻莉氏が登壇。『地方副業リスキリング』第5回セミナーレポート

2024年10月3日に『オンリーワンのキャリアを手に入れる 地方副業リスキリング』(著:杉山直隆 監修:南田修司 自由国民社)の発刊記念対談セミナー第5回がオンラインで開かれました。

セミナー第5回のゲストは、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉氏。「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンのもと、仕事獲得・スキルアップの支援や福利厚生など、フリーランスや副業ワーカーを多角的にサポートしています。

地方副業・兼業・プロボノは、フリーランスや副業ワーカーに何をもたらすのか。平田氏と、本書監修者・南田修司氏と著者・杉山直隆と鼎談をした模様をレポートします。
(構成:杉山直隆)

ゲストスピーカーの平田麻莉氏。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程を出産を機に中退。博士課程在籍中からフリーランス広報としての活動開始。2017年1月、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。非営利で全員複業の当事者団体として、自身の個人事業も継続しつつ、新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。株式会社アークレブ取締役/共同創業者。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。政府検討会の委員・有識者経験多数。

『地方副業リスキリング』監修者の南田修司氏。NPO法人G-net代表理事であり、地方企業と兼業者・副業者をマッチングする「ふるさと兼業」の代表を務める

『地方副業リスキリング』著者の杉山直隆。弊サイト「30sta!」の編集長として地方副業やプロボノなどに関する取材・執筆をおこなうだけでなく、自ら体験もしている

地方副業は「5が100」になる

南田
僕らもふるさと兼業を始めて6年目に入りましたけど、いまだに地域側から見れば「副業って何それ?」「それ本当においしいのか」というのが主流です。

そんななかで、フリーランス協会さんの「パートナーシップアワード」では、ふるさと兼業の事例をこれまで数多く取り上げていただいています。岐阜の醤油蔵や愛知の小さな印刷会社さんなど、地域の事業者さんに副業の方たちが入ることで、組織が変わったり、新しい事業が生まれていったり、という事例がアワードで取り上げられることは、地域の中での理解を深める上ですごく役に立っています。

平田
ありがとうございます。「フリーランスパートナーシップアワード」は、フリーランスと企業がいい関係性を築いて大きな成果を出したことを表彰するというアワードで、今年が6回目になるんですけれども。毎回いい事例をエントリーいただくなかでも、ふるさと兼業さんでマッチングした事例が毎回すごくいい話で。蓋を開けたら「あれ、これもふるさと兼業さんだった」みたいな偏りが生じてくるぐらい、なんか回し者かと思われるぐらい多いんですけど(笑)。

それだけ、地方の企業は課題を抱えて、すごく困ってらっしゃるんですけれども、専門性やスキルを持っている人がちょっと入るだけで、変化の幅がすごく大きいんですよね。誤解を恐れずに言うと、東京でバリバリやっている大企業やスタートアップでは当たり前のことが、地方の企業さんだといろんなリソースの不足からできてないということがある。そこにちょっと手を加えると、「5が100になる」みたいなことが起こるので、お互いすごくハッピーですよね。

地方副業がめちゃくちゃいい5つの理由

杉山
ふるさと兼業のような、地方の企業の課題解決に関わることは、フリーランスの方にとっても良い効果があるのかな、と思っています。私自身も実際試してみてそうだったんですけれども、平田さんから見て、フリーランスの方が地方企業での副業・兼業・プロボノをする意義はどんなところにあると思われますか。

平田
フリーランスに限らず、副業の方にとっても、地方でする副業はめちゃくちゃいいなと思っています。この理由が5つあるんですけれども。

1つは、「インパクトと裁量がすごく大きいこと」ですね。

首都圏の会社でやっていることよりも差分がすごく大きく見えますし、地方の会社さんだと、それだけ人も少ないですし、そんなに細かい縦割りの組織になっていないので、直接経営者と一緒に伴走することも多くなります。裁量という意味でもすごく持ているので、やりがいがあるというのは一つですよね。

2つ目が、ちょっと言い方に語弊があるかもしれないですけど、「タイムマシン的な発想で価値発揮ができること」ですね。

普段当たり前にやっていることがすごく驚かれたり喜ばれたりみたいなことがあるんですよね。

例えば、会議をしながらその場で議事録を取って、終わった瞬間に送信することは、スタートアップとかにいると割と当たり前にやっている人が多いと思うんですけども、それですごく魔法使いみたいに喜んでもらえたとかですね。

そういうデジタル活用もそうですし、それ以外のことでも地方企業には情報がまだ行き届いてなかったりするので、普段やっていることがそのだけで価値になるみたいなこともあるかなと思います。

3つ目が「希少性が高いこと」です。

首都圏にいると、ある意味人口も多くて競争が激しくて、どうやってその中で自分を見つけてもらうかが課題で、みんな差別化だとかセルフ・ブランディングだとかと言うんですけど。地方は人材が本当に少ないので、ある意味、差別化とか気にしなくても見つけ出してもらえるというか、重宝してもらえるところがあります。競争環境としてブルーオーシャンというところがあると思います。

あと4つ目が、1つ目のインパクトの話にも通じますけど、「本気で喜んでもらえること」です。本当に困っている企業が多いので、本当に喜んでもらえる。そこで得られる達成感や関係性はすごく素敵だなと思います。

最後の5つ目が「社会貢献との距離が近いこと」です。

地方の会社さんは、その会社がやっていることがその地域を支えていたり、雇用を生んだり、と首都圏よりもその地域での存在感があり、やっていることそのものが社会を回すための大事なエッセンスであることが多いので、その会社の貢献することがすごく社会貢献になることが多いと思います。

副業ワーカーにしてもフリーランスもそうですけど、経験値を増やして実績を増やしてキャリアアップにつながっていくということが副業の一つの良さだと考えると、そのためのフィールドとして地方のお仕事をするのは、今言った5つの意味ですごくいいんじゃないかな、と思います。

杉山
ありがとうございます。5番目の「社会貢献との距離が近いこと」とありましたけど、受け入れ先が小さな企業だったとしても実はその仕事の先には大きなものがつながっているというのはすごくある、と思いますね。

平田
そうですね。広がりはすごくありますね。

「先生扱いと下請け扱い」に注意

南田
冒頭ですごく上手に整理されるなと思って聞いていたんですけど。「タイムマシン的な価値提供」はなるほどなと思いました。それは本当によく感じていて。

面白いのが、「未来の人が過去に来て、過去の人が『未来ってすげえ』」と驚いているだけかと思いきや、意外と逆もあるんですよね。未来的な人が過去に出会ったときに「過去すげえ」となることが結構あります。

平田
ありますね。

南田
僕らはよく「隣の芝生は両方青かった」と話しているんですけど。

いろんなものが整った大手企業の素敵さと、何も整っていない中で価値創出をやっている地域の素敵さみたいなのが出会ってみると、「どっちも青いよね」みたいなことが結構ありますよね。

平田
そうですね。お互い学び合えるというかね、ありますよね。

南田
セミナーの第1回目に、法政大学大学院の石山恒貴先生をゲストでお呼びしたんですけど
この書籍に少し書いていたかもしれないですけど、石山先生と研究していた時に、副業などの外部人材が入ってうまくいっているチームは、お互いが学び合っている、というんですよね。

どっちかが学ぶ人で、どっちかが教える人みたいな関係じゃなくて、お互いが学び合っているチームがパフォーマンスも高いというのが調査から見えてきていて、そういう意味では両者がタイムマシンで違う時代に出会ったという価値があるよなと思って聞いていました。

平田
本当におっしゃる通りで、さっきの「フリーランスパートナーシップアワード」でも、パートナーシップの関係性のところにフォーカスして表彰しているのは、まさにそこで。

「うまくいくフリーランス・副業人材の活用」という話を企業にするときに、毎回お話しするのが「先生扱いも下請け扱いもダメですよ」ということです。どちらもうまくいかないですよ、と。

企業によっては「先生来てくださった」みたいな感じで、よそよそしくして、「恥ずかしい部分は見せられない」と良いところばっかり見せようとすれば、逆に下請け扱いみたいに「これさえやってくれてればいいんだ」とタスクを切り出して渡すだけというケースもあるんですけど、どちらもやっぱりうまくいかなくて。

本当にフラットにワンチームとして同じ方向を見てやっていく。リスペクトし合って学び合うみたいな関係性ができるとすごくうまくいくので、そういう学び合える関係はすごく大事だなと思いますね。

杉山
先生扱いや下請け扱い。企業の方もそうですし、働く方もうまくやっていくことが大事ですよね。

平田
そうですね。人材側もそこを線を引かずに同じチームの一員としてインサイダーになりきるというのはすごく大事ですよね。

「両思い」で始まる副業の落とし穴とは?

南田
フリーランスに限定しないんですけど、結構こういうマッチングって両思いで始まることが多いんですよね。やりたい人と受け入れたい地域があって、お互い顔合わせたりしながら「この人とやりたい」「ここで会社やりたい」と両思いで始まることが多いんですけど。

天にツバを吐くような話かもしれませんが、両思いになると、人っていい加減になるんですよ。分かってくれていることを前提にしたコミュニケーションになってくるというか。お互いのことを期待しているし、信頼し合っているんだから、そんな細かなことを確認しなくても良くない?って。

平田
なんか夫婦の喧嘩の理由みたいな(笑)。

南田
そうです、そうです(笑)。

そうすると、いつの間にか言ったつもりとか、聞いたつもりとか、「約束していたと思っていた」ということが出てくる。

仕事の中身も、お互い配慮し合うんですけど、「でもここまでが仕事だと思っていました」「ここまでやってくると思っていました」みたいなのが出てくるんです。

お互いが盛り上がっているときは気にならないんですけど、盛り下がるときって必ずあるじゃないですか。そういう時にそこが曖昧だと、途端に「あの人は何で」とか「あの会社はどうして」みたいなことが起こるんですね。

お互い両思いになっちゃうからこそ、契約回りや業務の設計・約束事が決められないままプロジェクトが始まって、後でトラブルになることが結構多いと感じています。

平田
本当そうですね。

コミュニケーションをしてまずちゃんと確認するというのは大事だなと思っていて。

特に契約や約束ごとの部分って、日本人は細かい条件や約束を確認するのを避ける傾向があるんですよね。なんかちょっと言い出しづらいとか、確認しづらいみたいな遠慮もありますし、なんかこう信用していないと思われたくないみたいなのもある。期限を切ろうとするのはなんかちょっと失礼なんじゃないか、というのもあるんですけれども、そこは仕事としてやる。

仮に報酬の発生しないプロボノだったとしても、自分の信頼を積み重ねるためにやるお仕事ですので、そういう条件面が企業側から出てこない場合も自分側からちゃんと確認をしていくのは大事だと思います。

この11月から施行されるフリーランス新法は、まさに「取引条件明示」というのが義務化されます。それは企業側が明示するべきという義務なんですが、その中でもどんな仕事をいくらでいつまでにやるとか、納品が必要な場合はどこでどんな形でみたいなことも含めて。ちゃんと確認しないといけないですよというルールができるので、なおさらそこはしっかり遠慮せずに確認する。私との契約でもしご迷惑をおかけしたら申し訳ないので念のため確認させてください、みたいな感じで、そっとフリーランス新法のリンクを送りながら確認してもいいかもしれないなと思います。

お互いの理解は、対話した瞬間に一番深まって、そこから徐々に離れていく

平田
もう一つは、目線合わせみたいなコミュニケーションもすごく大事だなと思っています。割とありがちなのが、今の取引条件明示のような、どんな仕事をいつまでにやるみたいなタスクベースの話はちゃんとしているんだけれども、上流の話をあんまりしてないケースがあるんですよね。

上流の話とは何かというと、経営者の思いやビジョン、その会社の経営課題、その地域の課題などです。これらがなかなかコミュニケーションされてないことがあるんですけど、フリーランスや副業人材も、なぜそのタスクやプロジェクトを今ここでやっているのかという上流のゴールや背景が分かっていれば、働きながら「もうちょっとこうやった方がよりゴールに近づくんじゃないか」とか「この方向でやったら課題は解決しなそうだな」というように、当事者目線、自分ごととしていろいろ判断したり提案したりできるようになると思うんですよね。

なので、タスクだけの話に終始せず、上流の話をする。そのコミュニケーションを惜しまないのはすごく大事だなと思いますね。

南田
確かにこのあたりは『地方副業リスキリング』でもまとめられていましたね。

杉山
そうですね。私自身もプロボノプロジェクトで失敗したのですが、リーダーの思いをそんなに聞かないまま「じゃあこれやった方がいいんじゃない」とか「あれやった方がいいんじゃないか」みたいな解決策の話にすぐに入っちゃうみたいなことをしていたんですね。それで受け入れ団体の方が置いてきぼりになっちゃったみたいな感じになっちゃったんですよね。

せっかく受け入れてくださっている方を置いてきぼりにするというのは、一番まずいと思うんですけど、それをやってしまったので、やっぱり結構丁寧に聞いた方がいいなというのは、私の経験では思いました。

平田
最初の1回だけじゃなくて、常時そういう話をしていくのも大切ですよね。途中で状況が変わったり、社長の気持ちが変わったりすることもあるかもしれないので。定期的に目線合わせをしていくというのはすごく大事だなと思いますね。

南田
ある兼者さん(ふるさと兼業の副業者)がこんなことを言っていて、「なるほどな」と思ったのが、「お互いの理解は、対話した瞬間に一番深まって、そこから徐々に離れていく」ということ。すり合った瞬間が一番すり合っていて、基本的に何もしなかったらどんどん離れていくから、もう一回すり合わせなきゃいけないんです、と言っていて、面白いなと。

確かにそういうシーンはめちゃくちゃ思い当たることがあって、話したから理解してくれている、といつのまにか勝手な期待をして相手と会話し始めるというんですかね。ずれているからやきもきしたりイライラしたりする。挙句の果てにはそれがカバーできないとお互いのことを批判し始めて、まさに学び手から批評家に変わっちゃう。そういうことはいっぱいありましたね

平田
やっぱり接触頻度って大事だなと思うんですよね。

恋愛も接触頻度って言われますけど、副業もそうだなと思っていて。お互いこまめに連絡をちゃんと取っていると、なんとなくその隙間から目線合わせができてたりすると思うんですけど、1ヶ月に1回、報告の時だけ話すとかだと、ちょっと見えない部分が多すぎて、溝が埋めがたいみたいなのはありますよね。

こまめに連絡を取るのは大変かもしれませんけど、SNSでつながっていて、「最近こんなこと、会社でやったんだな」「こんなことで今バタバタしているんだ」ということをお互い遠目から理解し合えるみたいな。それだけでもかなり違うのかなと思います。実際、私はそれにすごく助けられていますね。

杉山

そうですよね。フリーランス協会さんはいつも集まっているわけじゃないですよね。

平田

フリーランス協会の事務局は完全フルリモート組織なので、半年に1回だけみんなで集まってミーティングするんですけど、それ以外は遠距離ですね。

杉山
それはSNSとか、Slackとかで?

平田
普段のやりとりはSlack。あとはZoomでミーティングしていますけど、副業に限らず、リモートワークでよく言われるのは、ちょっとでもいいからリアクションすること。「今はレスできないけど後で返信します」と一言メッセージを返すとか、スタンプを押すだけでも、お互いそこにちゃんとコミットしているよという意思表示にもなります。また、リモートワークをしている会社はみんなそうだと思うけど、雑談っぽいチャンネルが設けて、いろんなところで気兼ねなく発信し合えるような環境にはしていますね。

無理して副業やプロボノをする必要はない

杉山
今日の参加者の方から、「地方の中小企業やベンチャー企業のなかにはフリーランス新法を知らない方もいるのではないかと思います。契約条件が明示されていない、あるいは明示していても守ってもらえないことが起きたら、どうすればいいでしょうか」という質問がありました。それについてはいかがでしょうか?

平田
まず前提として、フリーランス新法は罰則のある法律であり、場合によっては公取や厚労省から勧告が出たり、企業名の公表や罰金もあり得ます。

それでも、契約トラブルがあったり、法律の話をしても取り合ってもらえなかったりした場合は、無理して副業やプロボノをする必要は全くないと思います。他の選択肢もたくさんあると思いますので、無理せず契約終了するのが一つの正解ですね。

そもそも契約条件明示がされないような案件を受けないのも重要です。フリーランスや業務委託で働く副業の方にとってめちゃくちゃ大事な感覚の一つに「目利きの嗅覚」があります。この企業や経営者はやばそうだなと思ったら、最初から取引しない方がいいですね。

南田
副業者と受け入れ先企業は、通常の雇用関係がない分、対等の関係性にあると思うのです。時にその対等の関係が崩れることがあるから、フリーランス新法のような取り決めは大事になってくるんですけど、法的に誠実に対応されない方は、いろんなコミュニケーションが誠実に対応されていないと思うんですね。だから、契約条件明示がされていないようなことがあると、コミュニケーションのヒヤリハットリスクを感じます。

そういうトラブルを防ぐためには、我々のような地域コーディネート機関を間に入れるのも一つの手かと思います。

実際「毎月この日に報酬が払われるはずだったのに振り込まれていません」みたいなことは起こり得るんですけど、関係性ができてくると言いづらいという相談が意外とあります。単に忘れているだけかもしれないのに、言いづらいそうなんですね。

そういうちょっとした不満感や不安感を、僕らは間に入って聞き、「こっちから言っておきますね」「調整し直した方がいいですよね」と言って解消しています。同様に、報酬のミスマッチや認識のずれが起きた時も、第三者が間に入ることで是正できることがあります。

平田
コーディネート機関に入っていただく意味はすごく大きいですよね。代わりに交渉してくれるとか確認してくれるのもそうですし、そもそも目利きという話もちゃんとふるさと兼業さんとかが入ってくださっていれば、そんなにおかしな会社さんはもう振り落とされて、いらっしゃらないと思います。

杉山
ふるさと兼業はコーディネーターが間に入りますが、コーディネーターがいないマッチングサービスもあるので、その辺は知っておいた方がいいのかな、と思いますね。

打ち合わせを短く終わらせるスキルも必要

杉山
もう一つ、参加者の方からのご質問です。「意思の疎通などの対応に時間が生じた場合でも経済的な対価が得られば納得感がありますが、そのような場合は報酬対象の時間に含めて良いのでしょうか」。こちらはいかがですか?

平田
「打ち合わせ時間も業務時間に含みます」という契約になっていれば請求してもいいと思いますけど、そうではなく、何か成果に対しての契約ということであれば、打ち合わせ時間が長くなってもその分の追加報酬が発生することはないのが基本かなと思います。

南田
何に対して業務委託契約を結んでいるのかということですよね。いわゆる委任契約や準委任契約などの場合は、稼働時間に対して報酬を払うことが契約上存在すると思いますから、その場合は業務に関する打ち合わせ諸々含めて、報酬が発生すると思うのですが。

平田
事前に契約を結んでいないことについて「これも課金したい」とか、「これも業務時間に含まれます。でも今月の業務時間を使い終わりましたんで」などと言ってしまうと、相手に悪い印象を与えることもあるでしょう。そのあたりはよく考えて交渉した方がいいと思いますね。

また、打ち合わせをなるべく短く終わらせる段取りやプロジェクトマネジメントも、フリーランスに必要なスキルと言えます。受け入れ企業もお互い忙しいですからね。メールやチャットに関しても、キャッチボールの回数を最小限にする、というような配慮は必要だと思います。

自分のプライシングをどう決めるか?

南田
いま報酬の話が出ましたけど、対価の設定はフリーランスにとってめちゃくちゃ重要な一つのテーマだと思うんです。フリーランスって、常に同じ労働なら同じ対価と思っているわけではない。「この人の仕事だったらいくらででもやるよ」みたいな仕事もあれば、「いくら積まれてもやりたくない」という仕事もあると思うんです。おそらく副業をすると、いつか対価設定のテーマにぶつかってくると思いますが、この辺ってどうやって考えるといいんですかね。

平田
本当にすべての人が最初に迷うのが自分のプライシングだと思います。

考え方としては、まずどういうロジックで決めるのか。

たとえば準委任契約の場合だと、タイムチャージ的な考え方をすることがよくあります。「ミッション遂行のためにこのぐらい稼働したから、このくらいの報酬」というような、自分の時間単価を意識しながら、「だいたい自分は時間単価いくらぐらいでやりたい。この仕事をするのに何時間ぐらいかかりそうだから、月いくらで見積もりを出そう」というロジックで決めるわけですね。

一方、請負契約の場合は、バナーのデザイン一件でいくらとか、記事を1本書いていくらみたいな形でプライシングするのもあり得ます。自分のやりやすさと向こうの考え方とすり合わせながら調整していく感じですね。

杉山
自分の時間単価を決めるのは難しいですよね。

平田
最初は皆、自分の時間単価の感覚がわからないし、日本人は割と安く自分を見積もりがちです。

そこで私がおすすめするのは、半年などの期間限定で「イエスキャンペーン」をすること。とりあえず何でも言い値でやってみることです。

その中で「この金額だとちょっと心理的に辛いな、割に合わないという気持ちが大きいな」とか、逆に「そんなにもらっちゃったら、費用対効果の部分ですごいプレッシャーが大きいな」とか、「たくさんいただいたのに、満足してもらえなかったな」ということが分かってくると思います。その中でチューニングしていくみたいなのはおすすめのやり方ですね。

杉山
なるほど。

平田
あと、さっき南田さんがおっしゃったように、同じ仕事でも相手によって金額が違うということが全然あり得るのが、フリーランスの醍醐味だと思っています。すごく共感している仕事とか、この人のサポートをしたいという仕事だったら、変な話、見積もりのゼロを1個取って出すみたいなことも自分の裁量でできるのが良さだと思うんですね。

仕事から得る報酬は必ずしもお金だけじゃない。お金ももちろん大事だけど、経験とか実績とか人間関係とか達成感とか、いろんな種類の報酬を自分なりに組み合わせてバランスが取れていればいいんじゃないかなとは思いますね。

杉山
いろいろなマッチングサービスを見ていると、いろんな仕事があり、単価も違うことがわかりますよね。スポット的なコンサルティングのマッチングサービスだと、月10万円を超えるような仕事がある一方、ボランティアの仕事が多いマッチングサービスもある。

平田
スポットコンサルは、大企業の新規事業開発部門や外資のコンサル、証券会社などが、プロにお金を払って聞くことで、質の高いレポーティングや市場調査をしようという意図で使っているケースが多いですね。もともと時間単価が高い人たちのリサーチ作業をアウトソースしようとしているわけなので、結構その報酬としても高く支払われるケースが多いんですけども。

地方の企業さんのように、「そもそもいろんなことをやりたいけど、予算がないので、プロの知見を借りたい」ということで探されている場合は、同じ相場感にはならないと思います。

相場は本当に全く決まってないというか、そちら側もゼロ一つ取って出したりとか、相手によって価格は水物で提示していますし、その企業さんの規模や予算、課題の優先度にもよると思うので、そこはお互いが納得して折り合いがつけば正解はないというところですね。何でもありじゃないかなと思います。

南田

僕はこの質問で大事だと思っていることがあって。今の仕事でいくら稼いでるかはあまり関係ないと思っているんですね。「普段、日給10万円の仕事を受けているから、副業も日給10万円からやります」となるかというと、どこで仕事しているかによって全然違うと思うのです。

実際に副業している人たちの中で、1人で年間2億円を稼いでいる人が、その副業先で年間50万円を稼げないということがいっぱいあるわけです。

これはその人の能力が高い・低いというよりは、市場規模やビジネスモデルでまったく変わってくると思っています。市場や地域によって相対的に価値が変動するのは結構あるので、その感覚は大事かなと思いました。

平田
繰り返しになりますけど、相手によって値段を変えられるのは、フリーランスの醍醐味だと思うんですよね。自分の値段は自分が決めていいので、同じ仕事でも1時間で10万円とか20万円いただくお仕事もあれば、ただでやることもある。誰にも文句を言われませんから、自分の魂に素直になって、自分の時間の使い方や値付けを自分で決める、というのが良いんじゃないか、と思います。

いろんなものが混じり合っていくのが地方副業の現場

杉山
締めに南田さんと平田さんから、参加者の皆さまにメッセージをいただけますか。

南田
僕らは普段、地域にいる側でコーディネートしているなかで、いろんなものが一つの線で区切れないということを感じています。金銭や意味とかいろんなものが混じり合っていくのが地方副業の現場であって、それが面白さだと思っています。

その中では自分を安くする必要もないし、下手に高く見積もることもない。適切にフェアに、相手とコミュニケーションを取りながら自分の単価や価値が見えてくると、自分自身が安定してくると思うので、ぜひとも皆さんどんどんチャレンジしていただけたらなと思っております。

平田
今回、杉山さんのご著書をきっかけにお声掛けいただいたんですけれども、本当に地方で副業することのメリットや得られるものはすごく大きいと思います。最初の踏み出し方が分からない方もいらっしゃると思うんですけど、杉山さんの経験談も含めたいろんなお話を参考にしながら、ぜひ挑戦してもらえたらなと思います。最後の価格の話もぜひ参考にしていただけると嬉しいです。

杉山
本日はありがとうございました!


※さらに「地方副業」「プロボノ」のポイントを詳しく知りたい方は、『オンリーワンのキャリアを手に入れる 地方副業リスキリング』(杉山直隆/著、南田修司/監修、自由国民社)をぜひご覧ください。
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ABOUT ME
杉山 直隆
1975年、東京都生まれ。専修大学法学部在学中に、経済系編集プロダクション・カデナクリエイトでバイトを始め、そのまま1997年に就職。雑誌や書籍、Web、PR誌、社内報などの編集・執筆を、20年ほど手がけた後、2016年5月に、フリーのライター・編集者として独立。2019年2月に(株)オフィス解体新書を設立。『週刊東洋経済』『月刊THE21』『NewsPicks』などで執筆中。二児の父(11歳&8歳)。休日は河川敷(草野球)か体育館(空手)にいます