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固定観念が打破され、物事の見方が変わる。「地方副業・プロボノ」がもたらす5つの思考

※本記事は『オンリーワンのキャリアを手に入れる 地方副業リスキリング』(杉山直隆/著、南田修司/監修、自由国民社)の内容を再構成したものです。

最初は反発しても、徐々に自分が見えてくる

「固定観念が壊されて、物事の見方や考え方が変わること」も、地方副業・プロボノによってもたらされる効果のひとつです。

アウェイの環境に身を置くと、毎日のように、自分とは違う価値観や、考えもつかなかった考え方と出会います。はじめのうちは「自分のほうが正しい」「そんな考えはおかしい」などと反発するかもしれません。

しかし、客観的に考えられるようになると、「相手の言っていることも一理あるのはないか」「間違っているのは自分ではないか」「そういう考え方もアリか」ということに気づきます。そうして固定観念が壊されることで、視野がぐっと広がり、柔軟な思考を取り戻せるのです。

 「固定観念が壊されて、物事の見方・考え方が変わる」とはどういうことなのか。もう少し解像度を上げると、次のようなことが起こります。

1.「会社の常識は世の中の非常識」に気づく

まずは「会社の常識は世の中の非常識」であることに気づくことです。

たとえば公務員のCさんは、ある中小企業で働くなかで、事業を進めるスピードの速さに衝撃を受けました。普段働いている役所では、関係各所との調整が多かったこともありますが、体感では普段の10倍は速く、民間の中小企業がここまでスピーディに動いていることに驚いたそうです。このようなスピード感は職場の外に出なければ気付けなかったでしょう。

 また、ある地方銀行で働いているOさんは、町づくり会社で働くことで、残業をしないで帰る人たちを見て、カルチャーショックを受けたそうです。銀行で働いていたときは、いまだに長時間労働をして尽くしている人が認められ、定時で帰る人は認めないという文化があったそうですが、自分自身もその考え方に毒されていることに気づいたのですね。

 このように、一つの会社に長くいると常識のように思い込んでいたことが、会社の外に出てみると、実は非常識だったということはたくさんあります。それに気づくと、自分の働き方や生き方を見つめ直せます。

2.地方企業・NPOの志や情熱に感化される

「地方企業・NPOの志や情熱に感化されること」も、地方副業・プロボノでよく起こることです。

地方の企業やNPOの多くは、単に稼ぐことだけでなく、何らかの地域課題を解決することを念頭に、自社の事業に取り組んでいます。志のためなら、採算に合わないことでも、あえてチャレンジしている企業も少なくありません。

 そうした地方企業やNPOで数カ月でも働き、経営者やスタッフの志や情熱に触れていれば、大なり小なり感化されていくものです。

すると、「自分は、この人たちのように志や情熱を持って働けているだろうか」「自分は何のためにこの仕事をしているのだろうか「自分も、この人たちのように、人生をかけて何かをしてみたい」と今の自分の働き方を振り返るようにもなるでしょう。

そうして、自分の仕事の目的を強く意識するようになったり、何かにチャレンジしようという意欲が芽生えてきたりする人は少なくありません。会社の研修で地方企業で働いたTさんは「地方企業がビジョンとそれに直結した事業をしているのを見て、本業の社長が言っていたビジョンやミッションが初めて腹落ちした」といいます。

3.経営者視点が身につく

 地方副業・プロボノには、経営者視点が身につく、という効果もあります。

 経営者視点とは「個別の部署のことだけでなく、会社全体のことを考える」「長期的な視点で戦略・戦術を考える」「投資やコストに関する意識が高い」というように、経営者が経営判断を下すときの視点のことです。この視点を持っていると、「自分の目の前の仕事はどんな意味があるのか」「なぜこのような判断がくだされたのか」などが見えてきて、納得感を持って仕事ができるようになります。

 大きな会社に勤めていると、会社全体のことを考えることよりも与えられた仕事をきちんとこなすことを求められますし、組織がピラミッド型かつ縦割りで区切られていて、経営者は遠い存在なので、経営者視点はなかなか身につきません。会社全体どころか、前工程や後工程、隣の部署のことすら考えられなかったりします。

しかし、地方副業・プロボノでは小さな組織で会社全体の戦略に関わることも多いですし、経営者と密にコミュニケーションを取って、経営者の考え方を直接聞く機会も増えます。それによって経営者視点がつかめてくるのです。

大手メーカーのAさんは、酒造会社で新商品開発をおこない、社長と対話を重ねるうちに、「本業での自分は、自分の人件費や自分の仕事に対する利益など、成果やお金に対する意識が低かった」と気づいたといいます。

また、公務員のCさんも、伝統工芸品の企業で社長と共に仕事をして、経営トップがどのように物事を考えているかに触れたことで、普段の仕事でも「トップだったらどう考えるだろう」という視点で物事を考えられるようになったそうです。

4.主体的・積極的に動けるようになる

「今まではおとなしくて自分の意見を言わなかったのに、積極的に発言するようになった」「受け身のタイプだったけれども、主体性が出てきた」

 地方副業・プロボノを経験した人が本業に戻ったときに、このような変化をして、本業の上司や同僚から驚かれることがあります。

なぜこのような変化が起きるかといえば、地方企業やNPOには積極的・主体的に動ける環境があるから。そこに身を置くことで、積極的・主体的に行動する大切さに気づくからです。

会社と違って、副業・プロボノ人材と受け入れ企業の社長やスタッフの間には、上下関係がありません。あくまで対等な関係です。

しかも、副業・プロボノ人材は受け入れ企業にとってウエルカムな存在で、その能力を期待されていますから、さまざまな提案や意見を求められます。そんなムードで受け入れられれば、期待に応えようとして、積極的に行動するようになるでしょう。

そうして主体的・能動的に行動すると、仕事にやり甲斐が持てるようになります。とくに地方企業の場合は規模が小さく、自分が提案し行動した結果がすぐにあらわれるので、面白さも悔しさも味わうことになります。すると、ますます積極的・主体的に仕事にのめり込んでいくというわけです。

地方副業・プロボノの場で、そうした体験をすれば、本業でも同じ思いを味わいたくなるでしょう。だから、本業も積極的・主体的に取り組むようになるわけです。

5.今の環境の良さがわかる

 副業や研修などで、地方企業で働く経験をしたら、そちらに魅力を感じ、辞めてしまう人も出てくるのではないか。

 企業の人事からはそんな心配の声が聞かれることがあります。

 確かにそういうケースもあるようですが、実は逆のことが起きるケースは珍しくありません。社外で働くことで、今まで不満を持っていた本業の職場の良さに気づくことがあるのです。

 たとえば、地方企業で働くと、ヒト・モノ・カネなどのリソースがない分、インパクトの大きな仕事がしにくいことに気がつくでしょう。そうした仕事がしたいなら、本業の会社のリソースを上手く使ったほうがいいという結論に至るかもしれません。

実は本業の会社も世の中に役立っていることに気づくこともあります。

たとえば、地方銀行で働いていたKさんは、銀行で営業をしていたときは、地銀の存在意義についてあまり考えたことがなかったといいます。しかし、町おこし会社で働いたことで、地元経済を活性化する上でいかに地方銀行の存在が重要か、また自分の勤務先が地元経済にどれだけ大きな役割を果たしてきたか、に気づいたそうです。会社の外に出たからこそわかったことでしょう。

こうした思考の変化が起きると、今の自分のキャリア、さらには生き方についても見つめ直すようになります。すると、自分が本当に納得のいく生き方が見えてきて、閉塞感が晴れてくるというわけです。


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ABOUT ME
杉山 直隆
1975年、東京都生まれ。専修大学法学部在学中に、経済系編集プロダクション・カデナクリエイトでバイトを始め、そのまま1997年に就職。雑誌や書籍、Web、PR誌、社内報などの編集・執筆を、20年ほど手がけた後、2016年5月に、フリーのライター・編集者として独立。2019年2月に(株)オフィス解体新書を設立。『週刊東洋経済』『月刊THE21』『NewsPicks』などで執筆中。二児の父(11歳&8歳)。休日は河川敷(草野球)か体育館(空手)にいます