2024年9月5日に『オンリーワンのキャリアを手に入れる地方副業リスキリング』(著:杉山直隆 監修:南田修司 自由国民社)の発刊記念対談セミナー第3回がオンラインで開かれました。
本書は、近年注目を集めるようになった「リスキリング」の手段として、地方副業やプロボノ(本業のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動)をおすすめしている本。地方副業リスキリングの魅力・効果を実例を交えて紹介し、リスキリング効果を最大化するポイントなども解説しています。
セミナー第3回のゲストは株式会社ドコモgacco EduWork事業開発室長/CLO(Chief Learning Officer)の山田崇氏。都市部の企業や個人が越境体験をする意義について、監修者・南田修司氏と著者・杉山直隆と鼎談をした模様をダイジェストでまとめました。
(構成:東ゆか)
もくじ
競合他社ともコラボして、越境学習の文化を世に広める
杉山
山田さんはドコモgaccoで「地域越境ビジネス実践プログラム」の事業責任者を務めながら、「越境対談」というウェビナーをされていますね。
山田
はい。実際に越境学習を経験した方や越境学習を推進する企業の方をゲストにお招きして、お昼に1時間の生放送で実施しています。
杉山
時には競合ともいえる越境学習プログラムを手がける企業の方もゲストにお招きしていますが、なぜそうした内容のウェビナーを実施しているのですか?
山田
「越境学習」「越境体験」という新しい潮流の文化を作るために必要だと考えているからです。
最近は越境学習に関するさまざまなマッチングサービスが出てきていて、選択肢が増えてきました。しかし、まだまだ世の中に広がっているとはいえません。
マーケティングの世界で有名な「キャズム理論」では、新製品や新サービスを世に送り出すと、最初に全体の2.5%だけしかいないイノベーターが使い始め、その次に13.5%を占めるアーリーアダプターが利用するものの、次の34%を占めるアーリーマジョリティ層や同じく34%のレイトマジョリティ層に広がる時に大きな壁(キャズム)があると言われます。
このキャズムを乗り越えていくためには、同じビジネスで競争している皆さんと共に文化を作っていくことが必要なのではないか。前職で働いていた頃からそうした方々と交流があった私なら、コラボレーションができるのではないか。そう考えたのです。
杉山
その山田さんの考えに共鳴して、競合の方もゲストとして参加してくださっているわけですね。
山田
幸い、ご登壇していただいた方にとっても、改めて越境学習の意義を話すことは良い機会になっているようです。
『地方副業リスキリング』の中にも、チャンクアップ・チャンクダウン思考という話がありましたが、具体的な経験を抽象的に概念化したり、抽象的なことを具体的に考えたりした上でご登壇くださるんですよね。もちろん私自身にとっても大きな学びになっています。
小さな地域で問題解決をした経験が世界に輸出できる
杉山
そうした経験を踏まえて、ビジネスパーソンが越境体験をする意義は何だと思われますか?
山田
現在、日本の地方では人口減少と少子高齢化が進んでいます。これは世界的に見るとすごくマイノリティなことですが、10~20年後には、都市部はもちろん、アジア全体で起こってくるのですね。
だから、今のうちから、人口減少などが進む地域の問題を解決する経験を積んでおくのは、すごく重要だと思うのです。
たとえ小さな経験だとしても、都市部など他の地域で「ひょっとしたらこのケースで役に立つのでは」ということが起こると思うのですね。さらには、そのノウハウを世界に輸出することもできるのではないでしょうか。
また、地域のような小さな単位の中ですと意思決定をスピーディに行えるので、結果が1ヶ月や半年で見えることもあります。こうした実証実験をスピーディに行えることもとても意義のあることだと思います。
南田
これはとある大企業の方がお話しされていたことなのですが、大企業というのは一つの”村“だそうです。形成された歴史や文化は、地盤にもなるけれど、変革を阻害することもあります。地域でも大企業でも実は同じ問題が起きていることがある。
だから、地域の未来を作る過程を経験することは、自分たちのホームである大企業で仕事をする上でも有意義であるということをお話しされていました。
都市部より地方で始めたほうが、発信力が高い理由
山田
また、地方で新たな取り組みをすると、都市部よりも発信力が上回る場合があることにも注目していただきたいです。
同じことを都市部と地方でした場合、地方のほうが圧倒的に地元の新聞に取り上げてもらいやすいのです。
たとえば私の出身地である長野でいうと、信濃毎日新聞や、松本や塩尻の地域紙である市民タイムスなどがあるのですが、新たな取り組みをすると、カラーで1面に載せてもらえることがあるのですね。全国紙ではそう簡単にはいきません。
昔は地方紙で取り上げられてもその地域でしか情報が流通しませんでしたが、今はウェブ版での配信もあるので、SNSで拡散してもらうことができます。
つまり、地域の小さな取り組みが世界に広がっていく可能性が、以前よりぐんと高まっているのです。
そう考えると、新規事業などの新たな取り組みを地方で始めるのは、大きなアドバンテージがあるとも言えます。
杉山
地方で始めたほうがムーブメントが作りやすいといえそうですね。
失敗しても思い切りフルスイングすれば、大きなものを持ち帰れる
山田
もう一つ、私が今肌で感じていることですが、弊社社員が一人もいない地域で「地域越境ビジネス実践プログラム」を展開すると、「NTTドコモ=派遣された社員」というように、個人が企業の代表性を背負うことになります。
地域の受け入れ先や関係する方々に良い印象をもっていただければ、ブランドイメージが高まります。NTTドコモの社員が地域で頑張れば、「NTTドコモの社員はみんなすごい」という印象をもたらすことができるのです。もちろん逆もあり得るのですが。
南田
代表性をもつことは難しさも怖さもありますよね。
ただ、地域に飛び込むことで、ホーム企業の人格とは別に、越境先に対する当事者意識が生まれてくるものです。すると、地域の未来を一緒につくっているという感覚が芽生え、課題解決に向けてやりがいを持てるし、学びも生まれます。そうなれば、地域にとっても、個人にとっても、送り出した企業にとっても、意味のあることだと感じますね。
杉山
個人のキャリア自律や意識改革という意味でも、越境体験は大きな意味がありますよね。
山田
正直、私は「こうすれば地域課題が解決できる」なんていうマニュアルはないと思っています。あったら地域は困っていないはずなのですから。『地方副業リスキリング』に書かれていることも、あくまで過去の事例の一つであって、絶対にうまくいく方法を書いた指南書ではないと思います。
「これをやってみよう」と思っても、すでに実践済みということもよくあることです。そんななかで課題を解決するにはどうしたらいいか、といえば、結局は決められた期間のなかで、できる限りのトライアル&エラーを重ねるしかありません。
観察やヒアリングをして、できることを考えて、できないことは助けてもらう。自分たちだけでできないなら、新たなステークホルダーを見つけて共創することも必要です。
そのように、自分で見て感じた情報をもとに主体的に考えて提案・実行する。その主体性と実行力をホームに持ち帰れたら、越境学習の成果があったといって良いでしょう。
杉山
地域の課題は難しいことばかりですから、うまくいく方のほうが少ないわけですが、そうしたなかでもがくことに意味がある、と。
山田
『地方副業リスキリング』の中にも「越境者は二度死ぬ」という、越境者は地域とホームの2つの場所で壁にぶつかるという記述がありましたが、そのとおりだと思います。
でも、本当に死ぬかというと、そうではありませんよね。
地方企業での副業や越境学習プログラムは、場合によっては、『ドラゴンボール』でいう精神と時の部屋に入るような体験ができます。孫悟空がその部屋のなかで修行をして強くなるように、人も壁にぶつかることで強くなります。これこそが個人のキャリアにとって必要なことだと思います。
そういった場で、手堅く送りバントだけしてくるだけでは、大きな学びは得られません。三振覚悟で、思い切りフルスイングしてくることが大切だと思いますね。
「そうか、ここまでやっていいんだ」。自分自身の枠を外せる
山田
あと、「越境対談」に登壇いただいた、越境体験を実践している鉄道会社の方が、こんなことを話していました。
「大きな企業で働いていると、個人の役割が明確に決まっているので、自分でも自分の枠を決めていたところがあったのですが、地域の会社に越境したら、企画も営業も広報も何でも自分でやっている経営者がいて、『そうか、ここまでやっていいんだ』と気づいた」というのですね。
そうした姿を目の当たりにして、自分自身も枠を外す経験をすると、本業でも「自分もここまでやってもいいのではないか」という姿勢を持てるようになると思うのです。本業の中での「自分ごと」の感覚も広がるかもしれません。
南田
先日、弊社の越境研修プログラムに部下を派遣する部長さんがいらっしゃったのですが、地域課題に触れたことで、「これは俺がやろうと思った」と自らも参加されたのです。すぐさま提案書を作っていました。
このように越境体験をして地域に触れると、これまで関わりのなかった地域だったとしても、その問題が自分ごと化し、自分自身の行動にオーナーシップを持てるようになる。その結果、本業に戻っても、自分ごとで考えられるようになるというのはあると思います。
越境の掛け合わせで豊かなキャリアが築ける
杉山
最後に、これから越境体験にチャレンジしようと検討している個人や企業に向けてメッセージをお願いします。
山田
私も塩尻市役所からNTTドコモに転職した越境者のひとりです。その結果、キャリアが掛け算となって、今の自分を築けています。個人だけでなく、都市部と地域、大企業と中小企業といった越境の掛け合わせにもすごく可能性を感じています。
だから、企業で働く皆さんも、社内で越境体験のような取り組みがあったら参加していただきたい。もし自分の会社でもプログラムをつくってみたいということであれば、ぜひお手伝いしたいですね。
また、冒頭にも申しあげましたが、人口減少、少子高齢化問題を抱える地方は、ある意味、世界課題の先進地でもあります。そこで自分たちと異なる背景を持った当事者たちと話し、共創することは、本業でM&Aした後の会社や、海外の企業と仕事をしていく上で必ず役立つはずです。
南田
越境体験を検討されている方には、まず一度、飛び込んでいただければと思います。
そうすると、いつの間にか遠くから見ていた町や企業に対して「うちの町」「うちの社長」「うちの商品」という言葉を使い始めるようになります。そんな瞬間が素敵だな、と僕は越境者の皆さんを見てきて、いつも感じています。
そうして大切な場所が増えていくと、「あの地域に台風が近づいてきて心配だな」「なんかできることないかな」という気持ちが芽生えてきます。そういうものが多様になっていくと、すごく豊かな気持ちになれるので、ぜひ挑戦していただきたいと思っています。
杉山
本日はありがとうございました!
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