働く・参加する

【趣味や特技で介護現場に触れる】令和時代の“互助のカタチ” スケッターの仕組みに人が集まりだした理由

こんにちは、「30sta!」ライターの塩野です。

介護の世界の仕事に興味があるけれど、いきなり転職するのはハードルが高い……という人は多いようです。

私は看護師として介護施設で働いていたことがあり、比較的現場になじみがありますが、普段、施設に出入りする人のほとんどは、スタッフかご家族。業界未経験の人には「どんな環境で働くのか」「どんな仕事があるのか」「どれだけキツいのか」、その実態がわかりにくいですよね。

そんな「介護や福祉の仕事に興味を持つ」人のニーズに着目し、「介護の現場を気軽に体験できる」サービスが2019年にスタートし、好評を博しています。

介護施設の仕事に興味があるスケッター(働き手)と、短時間でいいので仕事の一部を手伝ってほしい施設をマッチングする、「Sketter(スケッター)」https://www.sketter.jp/)です。

「このマッチングサイトを活用すれば、介護や福祉の資格がなくても、介護施設の仕事を短時間だけ手伝うことができます。自分の趣味や得意なことを生かして、介護施設の現場のリアルを垣間見られますよ

と話すのは、この仕組みを生み出した(株)プラスロボの鈴木亮平社長。オンラインでお話を伺いました。

「スケッター」を運営する(株)プラスロボの鈴木亮平社長

手工芸の講師、将棋や麻雀の対戦、雑巾縫いの見守り……。介護施設には「レクリエーション」の仕事がたくさんある

介護施設の仕事というと、多くの人は「身体介助」をイメージするかもしれません。

しかし、介護施設には、身体介助以外の仕事もたくさんあります

とくに多いのは「レクリエーション」です。レクリエーションは、介護施設を利用している人の生活の質を高める上で、非常に大切な役割を果たしています。好きなレクリエーション活動は一人ひとり違うので、さまざまなバリエーションを用意することが求められています。

スケッターの特徴は、そうした介助以外の仕事の求人が数多く見つかることです。全国170の介護施設が、常時500種類を超える仕事の募集をかけていて、レクリエーションの仕事もたくさんあります。

たとえば、以下は、原稿執筆時点で募集されていた、レクリエーション関連の仕事です。


◎「山吹の里のご利用者と将棋勝負!」

  • 特別養護老人ホームの入居者と、おしゃべりしながら将棋を指す
  • 月曜日か火曜日の14:00 – 16:00
  • 東京都豊島区
  • 報酬1,000円

◎「手仕事(雑巾クラブ)」のお手伝い

  • デイサービスの利用者が雑巾を縫うのを見守る。針やハサミの管理をし、使う針に糸を通したり、利用者と話したりする。
  • 水曜日の10:30 – 12:00
  • 神奈川県横浜市
  • 報酬1,500円

◎「好きな事(得意な事)を教えてください♪」

  • 工芸、書道・ペン字、化粧、アロマ、エアロビ、ヨガ、ボクササイズなど、得意なレクリエーションの講師をデイケアでおこなう
  • 月~土のうちの13:30 – 14:30
  • 埼玉県草加市
  • 報酬1,800円

◎「麻雀のお相手お願いいたします。(挑戦者求む!)」

  • デイサービスで4人麻雀のメンバーの一人として麻雀を打つ
  • 平日の9:30 – 16:00
  • 埼玉県吉川市
  • 報酬500円

レクリエーションの仕事をきっかけに、介護施設のリアルを体感できる

いきなり生活の援助をするのは抵抗がある人でも、こうしたレクリエーションの仕事なら、気軽に始められることでしょう。

介護全体の仕事をするわけではないので、辛い部分、大変な部分は本当の意味では分かりませんが、最初からハードルが高いことをする必要はないと思います。まずはやりやすいところから体験するだけでも、介護施設の姿が見えてきます」(鈴木さん。以下同)

レクリエーション以外にも、記事の作成や写真の撮影、動画の制作といった、情報発信にまつわる仕事も数多くあります。

他にも、『職員と介護についてあれこれ話そう』などという、現場の仕事以外の募集もあります。

本業を持っている人でもチャレンジしやすいことも、スケッターの特徴です。

「午前中だけ」「午後の3時間だけ」とスキマ時間を使ってできるものもありますし、平日だけでなく土日の仕事の募集もあるので、会社を辞めなくても参加できます。「1回からでもOK」という仕事を選べば、さらに気軽に体験できるでしょう。

介護施設も「レクリエーション離職」を防げる。双方にメリットがある

実は、このような「身体介助以外」の仕事をスケッターが担うことは、施設側にとっても非常に歓迎すべきことです。

レクリエーションの仕事は、介護スタッフにとって大きな負担になっているからです。その場を盛り上げたり、場を仕切ったりすることには向き不向きがあります。このレクリエーションが嫌で介護の仕事を辞める「レクリエーション離職」も少なくありません。

かつて私も介護施設で看護師として勤務していたとき、「青い山脈」などをアカペラで利用者の方と歌ったことがあります。一生懸命歌ったもののあまり盛り上がらず、「絶対もっと得意な人がいるはず」と申し訳なく思った記憶が……。

ここで、もし、カラオケが得意な人や、歌が好きな人がいてくれたらどんなにありがたかったことか。

レクリエーションが原因で離職してしまうというのは、せっかく介護の現場が好きで入ったスタッフにも施設にとっても残念な決断です。

だからこそ、スキマ時間にスケッターに来てもらえることは、現場にとって、とてもありがたいことなのです。たとえ短時間でも、現場に入って仕事を支えるスケッターがいることで、本来の業務に専念できます。

「また、スケッターを通じてその介護施設を知ってもらうことで、コアな仲間ができ、継続的な働き手が確保できる可能性もあります。オープンな施設づくりを後押ししている効果もあるのです」

「関心層」を引き入れるために、ゆるく関われる仕組みを作った

もともとプラスロボは、社名にある通り、「介護現場の人手不足をロボットの力で解決する」することを目的に、事業をスタートしました。

起業前はテクノロジー系メディアの編集記者をしていた鈴木さん。介護ロボットが現場に導入されることで、現場の負担を減らせることに期待を抱いていたといいます。

ところが現場をいくつも訪問するうちに、単純作業ばかりではなく「人間でしかできない仕事が多いこと」や、「まだまだ人手を必要としていること」を痛感。

介護業界の問題をロボットが解決するようになるには時間がかかるという現実を思い知らされました。

そこで、鈴木さんが出した結論は、「問題を解決するためには、まず、介護に関わる人を増やすこと」。介護の仕事に関心は持っているけれども転職などの行動に移せない「関心層」を引き入れることが必要だと考えました。

ただ、明日から突然8時間勤務、排泄のお世話も全部やれ、と言われたらハードルが高いと思うんです。就職するか・しないかという選択肢しかないと、少し関心がある人が敬遠してしまう。こうして機会損失が起こることは、もったいないですよね。そこで『まずはゆるく関われる仕組みを作ろう』と、スケッターのような、仕事を切り分けて募集できる仕組みを立ち上げたわけです

いざスケッターとして現場に足を踏み入れようとしても、やはり初めての場所には不安がつきものです。

そこで、スケッターでは、スケッターが、働いた施設を評価する仕組みを取り入れました。これまでの受け入れ人数や評価、参加者のコメントを見られることで、どのような施設かを事前に知ることができます。

6割は介護系資格を持っていない人。きっかけに転職した人も

現在、登録しているスケッターは、約1600人。年齢層は20~30代が7割を占めています。本業で会社員をしている人が多いそうで、全体の6割は、介護や福祉系の資格を保有していないそうです。まさに「関心層」が集まってきているといえるでしょう。

利用した人の口コミやtwitterなどを通じて毎月約80人ずつのペースで登録者が増えているそうです。

スケッターをきっかけに、会社を辞め、介護施設に転職した人も出てきています。実際に働いた施設にそのまま入る人が多いそうです。

スケッターを体験すると、ほとんどの人は充実感を持ち帰っていらっしゃいます。『3Kというイメージがあるけど、意外と違った』という声もよく聞かれますね。現場の雰囲気を知ってから入るので、『想像と違う』などのすれ違いを防ぐことができます。施設で仕事を体験した後に、介護関連の資格を改めて取って、就職した人もいます

すでに介護の仕事をしている人が、スケッターで他の施設を体験した上で、転職するケースもあるそうです。

「今までは自分の職場の常識が業界の常識だと思っていたけれども、他の施設を見たら、全然違っていた。自分が追い求めていた理想の仕事の仕方を見つけた……。そんなカルチャーショックを受けた、という人も多くいらっしゃいます」

もちろん、採用につながることは、受け入れ先の施設にとっても大きなことです。

「スケッターを利用している施設からは、月額の利用料しかいただいておらず、マッチング自体の手数料はありません。手数料なしで、自分の施設を理解している人材を確保できた、と喜ばれています」

今後も広がるスケッタ高齢化が進むマンションでの需要も

今後は介護業界以外にもスケッターのサービスを広げて、社会全体に浸透させていくことを目標にしている、と鈴木さんはいいます。

「実は施設だけでなくて高齢化が進むマンションなどからも要望があります。1人暮らしをしているお年寄りが買い物や通院の際、付き添いにスケッターを利用することで孤立を防いでいけたらと考えています。最終的には施設だけではなくて地域の人々が助け合えるようなサービスにしたいと考えています」

介護の現場に興味のある人は、ぜひスケッターとして現場に足を運んでみてはいかがですか?

転職まではいかなくても、自分の空いている時間で社会貢献ができるはずです。


【Sketter(スケッター)のポイント】

  • 介護の現場を体験してみたい人と、短時間でも仕事を手伝ってほしい施設をマッチング
  • レクリエーションを始めとした、「生活の援助以外の仕事」も多い
  • スキマ時間、休日に仕事ができる
  • 報酬も得られる
  • スケッターでの体験をきっかけに、転職した人も

【問い合わせ先】

Sketter(スケッター)
https://www.sketter.jp/

ABOUT ME
塩野涼子
栃木県生まれ。看護師歴10数年。 子育てをきっかけに働き方を変え、現在はライターをメインに活動中。ときどきクリニック勤務。医師監修のもと医療記事や取材記事を作成しています。 趣味はドラマ鑑賞、コーヒーが好きです。