2024年8月8日に『オンリーワンのキャリアを手に入れる地方副業リスキリング』(著:杉山直隆 監修:南田修司 自由国民社)の発刊記念対談セミナー第2回がオンラインで開かれました。
本書は、近年注目を集めるようになった「リスキリング」の手段として、地方副業やプロボノ(本業のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動)をおすすめしている本。地方副業リスキリングの魅力・効果を実例を交えて紹介し、リスキリング効果を最大化するポイントなども解説しています。
セミナー第2回のゲストは、名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科准教授で、キャリア形成に有効な「長期実践型インターンシップ」を研究し、その重要性を発信されている今永典秀先生。「長期実践型インターシップ×地方副業リスキリング」をテーマに、監修者・南田修司氏と著者・杉山直隆と鼎談をした模様をダイジェストでまとめました。
(構成:東ゆか)
もくじ
長期の地方副業・兼業・プロボノ・インターンシップで“キャリアの掛け算”を図る
杉山
地方副業・兼業・プロボノは、「アウェイの場で働く経験をする」という意味で、学生のインターンシップと似ています。学生のインターンシップと社会人の地方副業・兼業・プロボノの意義についても、共通する部分はあると思うのですが、今永先生はどうお考えでしょうか。
今永
大学生にとっても社会人にとっても、本質的な意義は変わらないと思います。
インターンシップと地方副業・兼業・プロボノに共通する大きな意義のひとつは、「自分のキャリアを考え続けるために必要な刺激やヒントが得られる」ことです。
そもそもキャリアとは自分のスキルと“なにか”を掛け算して築くものです。昨今は世の中の変化が激しいので、働き方やスキル、職種もどんどん変化し、増え続けています。こうした環境のなかでは、学生の頃から、また社会人になってからも、自分が惹かれることとは何か、自分の力を発揮できることは何か、と自分のキャリアを考え続けることが大切です。
そう考えると、常に新しい働き方や考え方に触れ続けることが、より幸せな働き方を見つけ出すことにつながります。そうした経験ができる機会として、インターンシップや地方副業・兼業・プロボノは活用する価値があると思います。また、自己評価と外部からの評価は往々にして異なるものですが、それに気づける良いきっかけにもなると思います。
長期だからこそ生まれる成長曲線
杉山
今永先生は、1か月以上の期間でおこなう「長期実践型のインターンシップ」のご研究をされています。地方副業・兼業・プロボノの多くも、3カ月、半年、1年と長期間に及びますが、長い期間をかけて実践することの意義はなんでしょうか?
今永
学生向けのインターンシップは5日程度の短期型が非常にたくさんありますが、短期間では学生に大きな変化は見られません。なぜかというと、企業側が学生をお客さん扱いしているうちに終わってしまうからです。超短期間でなにか一つのプロジェクトを一気に進めることはできたとしても、“本気で働く経験”はできないからです。
就業体験は、トライ&エラーの試行錯誤のなかで頑張り抜いてこそ成長が得られるものです。そういった経験は長期間、関わらないとできません。
南田
第1回ゲストの石山恒貴先生は、地方副業・兼業・プロボノ先で体験した刺激や学びをホームに持ち込もうとすると必ずぶつかる壁があるとおっしゃっていましたが、そうした刺激や学びを得るまでには、やはりある程度の時間が必要だと思います。
今永
杉山さんは8ヶ月の「ふるさと兼業」をご経験されていますが、何ヶ月目ぐらいからどのような変化を感じましたか?
杉山
私は、町おこしにまつわるメディアを立ち上げるプロジェクトに参加し、同じく副業で参加したチームの方と仕事をしたのですが、ライター・編集者として20年以上の経験があったため、最初の1ヶ月間は、「自分が一番メディアに詳しい」と自負していましたし、「的確な意見を出している」と思っていました。
しかし、2ヶ月目ぐらいから、「自分の意見が正しいと思っていたけれども、あれ、正しくないのでは?」と葛藤するようになりました。「自分の目が曇っているかもしれない」とも思えて、視野を広げる必要性を感じました。
今永
大人の方でもそういった経験をしますよね。
大学生も、3ヶ月間のインターンシップの推移を見ていると、1ヶ月目ぐらいまでは学生から、他の学生の悪口や仕事に対する不満などの声が多いのですが、2ヶ月目、3ヶ月目になると「自分はもっとこういうことで貢献したい」とポジティブな声が増えてきます。さらに終盤になってくると、「この後も、インターン先でアルバイトをしたい」とか、「他の企業にもインターンに行きたい」といった前向きな相談を受けるようになります。
杉山
その感覚はわかりますね。長く関わるほど仕事が面白くなってきますし、内省をするようになると思います。
南田
うちでも、学生の6ヶ月間のインターンシップを仲介しているなかで、終了後に「いつがターニングポイントだったか」をたずねています。
よくある傾向は、開始1ヶ月目ぐらいはモチベーションが高いのですが、その後、モチベーションが下がっていくことです。さまざまな壁にぶつかっているんですね。
多くの場合はそこから持ち直していくんですが、モチベーションが右肩あがりに変化していく人と低空飛行のまま終わってしまう人がいます。
それぞれの人から話を聞いてみると、気持ちの部分で明確な違いがあることがわかってきました。
杉山
具体的にはどういう違いがあるのですか?
南田
低空飛行で終わってしまうのは自分のことばかりを考えた人。そうでない人たちはお客様やチームメンバー、上長のことを思いやって行動できた人です。
インターンを始める動機は、自分自身が成長したいからということに尽きると思うのですが、それが前面に出なくなったら楽しくなってきた、と皆さんお話しされていました。
「相手のため」が自分のためを生み出す
今永
『オンリーワンのキャリアを手に入れる地方副業リスキリング』にも、「『相手のため』と考えると『自分のため』になる」と書かれていましたね。そういう側面はあるなと私も感じます。
杉山
本書では「リスキリング」と銘打ってはいますが、実は、自分のスキルを上げることだけを考えるよりも、受け入れ先のことを考えて取り組んだほうが、いつのまにかスキルアップができるのではないか、というメッセージを伝えたいと思っています。これは、自分自身の経験に加えて、経験者の方への取材を通しても実感したことですね。
南田
受け入れ先に対して、参加する方が「相手がなにかしてくれるだろう」と頼りすぎていては、うまくいきません。
これは、受け入れ先にとっても同じことが言えます。第1回ゲストの石山先生もお互いが相手にフリーライドしようとしているプロジェクトからは学びが得られないだろうとおっしゃっていました。プロジェクトに臨むときは、お互いが学び合える、与え合えるような内容になっているか、参加者も受け入れ先もよく考える必要があると思います。
両者にマインドや価値観の変化をもたらす
杉山
私はふるさと兼業の経験によって、自分の視野の狭さを感じ、視野を意識的に広げるようになったという変化が起こりました。同様に地方副業・兼業・プロボノを経験した方からも、同じような声は聞かれますね。
今永
インターンシップにしても地方副業にしても、その経験自体によって社会人基礎力が身についたとか、スキルアップしたということよりも、マインドや価値観を変化させる効果の方が大きいと思います。
南田
そうですね。参加した方自身が自覚するだけでなく、ホームの職場で一緒に働いている方からも「経験後に、雰囲気や仕事の進め方が変わった」と評価されたという話はよく聞かれます。
むしろスキルアップのような「こういう力がつく」ということを目的にしてしまうと、学習そのものが矮小化してしまい、効果が薄くなってしまうと思うのです。
地方副業・兼業・プロボノは、参加者と受け入れ先の両者が一緒になって、アウトプットを生み出していく。その密度が高い経験ができるほど、お互いの土台に残るような成長ができると感じます。
今永
『オンリーワンのキャリアを手に入れる地方副業リスキリング』では、コーディネーターが伴走支援しながら、受け入れ先の企業や地域の方と、参加者が一緒になってお互いに成長できたという良い事例が取り上げられています。つまり、うまくいけば両者に大きな成果がもたらせることが明らかになっています。
今はまだ日本の地方副業・兼業・プロボノやインターシップの数は少ないと感じています。この本が、今後、それらの増加のきっかけになってくれたら嬉しいですし、南田さんと杉山さんにも大活躍していただき、日本の地方での副業・兼業・プロボノが増加していくことに期待したいです。
南田、杉山
本日はありがとうございました!
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